自分の人生に影響を与え、今の自分の感受性のベースとなったゲーム作品の一つに「夕闇通り探検隊」があります。
ゲーム自体は街中のおかしな「噂」の真相を中学生が探るホラーゲームの一種なのですが、その中で繰り広げられる中学生同士の会話や描写される感情の動きといったところが、プレイ当時小学生から中学生になろうとしていた自分には一種のリアルさや親近感を強く感じるものであり、ただのホラーゲームといったところを超えた「感情を揺さぶる」作品になりました。
そんな夕闇通り探検隊は「実際に存在する街中の景色がゲーム内に出てくる」という特徴を持っており、そのゲーム内容自体の魅力とゲーム内で描かれる郊外の現実にありそうな(実際にあるわけですが)景色が相まって、思春期に強烈な影響を与えてくれました。
今回はその夕闇通り探検隊の実際の舞台である日野市において、ゲーム中の風景として使われた各ポイントがどのような変貌を遂げているのか、というのを見ていきたいと思います。
1999年のゲーム発売から実に24年が経過した今、「本当に」夕闇通り探検隊の様子をレポートします。
なお偉大なる先人の聖地巡礼サイトはこちら。当時の様子なんかがしっかりと残されています。(infoseek閉鎖に伴い管理人さん本人が管理している状態のサイトなのかは不明ですが・・・。)
http://park3.wakwak.com/~kypyma/yuyami/report/report.html
豊田駅近く:パッケージの写真の場所は便利で住みやすそうな場所に
まず夕闇通り探検隊の印象的な場所と言えば「パッケージの場所」でしょう。
自分が夕闇通り探検隊を購入した理由も、このパッケージの写真に惹かれたからというのが一番の理由です。
母親とレンタルビデオ店にいってゲームコーナーに立ち寄った時、この夕闇通り探検隊のパッケージが目に入った瞬間に気に入ってパケ買いを母にお願いした思い出があります。
何の前情報も仕入れていなかったのですが、この「ただのホラーゲームではない雰囲気」を見せるこのパッケージの写真の存在感は凄まじい印象があったのを覚えています。
そんなパッケージの場所は旧多摩平団地と呼ばれる中央線・豊田駅のすぐ近くの公団住宅が建っていたところです。
通常のよくある4~6階建てほどの団地の他に、テラスハウス住宅と呼ばれる庭付きの長屋住宅といったもので団地が構成されていた多摩平団地でパッケージの写真は撮られています。
自分はこの多摩平団地の取り壊し前に一度だけパッケージの場所をちゃんと見ることが出来ましたが、それも18年前となります。
18年の間にパッケージの場所がどうなったのかを今回は見ることができました。
現在は駅からすぐ近くの商店街がイオンに変わっており、多摩平団地の入り口も新しいUR公団住宅に変わっています。
そしてこの奥地にあるパッケージの場所も同じような新しい公団住宅に変わった、と思っていたのですがなんと18年ぶりに再訪したところ・・・
「またもや工事中」という事態に。
この工事では大規模なタワーマンションの開発が進んでいました。18年前の訪問の時にも似たような工事の景色でしたが、それをまた同じ場所で見るとは思いませんでした。
どうやら再開発でパッケージの場所を解体後も、新規の住宅や施設が建つことなくそのままの状態にされており、ようやく最近になってタワマン建設が進んだようです。
豊田駅自体は駅前のロータリーや駅の風貌はそれほど変わっていませんでしたが、旧商店街から旧多摩平団地周辺の変化は夕闇通り探検隊が発売されたころから大きく変化してしまっています。
パッケージの場所の面影・・・といったものは現状消えてしまっており、今行ってみてもその消失感からくる寂しさを確認することになってしまいます。
過去の豊田駅周辺の状況と比べると格段に住みやすくはなっていますが、夕闇通り探検隊の景色といったところはほぼ残っていない状況です。
日野駅周辺の聖地は・・・
ここからは豊田駅から1駅行った先の日野駅周辺の夕闇通り探検隊の舞台の現況を見ていきます。
まずゲームのOPの場面で日野駅ホームから街中を見下ろす場面の再現から。
ちょうどゲームの発売前後に再開発でマンションが増えたということもあり、ゲーム上の風景からは大きく変わっています。
ただゲーム発売後にこの日野へ来た時にはすでにこれらのマンションが建設されていたため、それを考えると17、8年ほど景色は変わっていない状態が続いています。
ゲームの景色からは大きく変化したものの、それ以降の変化は乏しいためにゲーム上では再開発が進む街とされている中で、実際には開発が全くなされていないというこの状況はちょっと日本の行く末を不安に感じさせるものでもあります。
同じくOPムービーで出てくるカーブミラーも日野駅前にあります。
ただしこちらはOPムービーでは狭い路地みたいになっていますが、現在は住宅地として整備された一角に置かれるミラーとなりました(ミラー数も増加)。
元々手前側は狭い通路と駐輪場があるぐらいでしたが、今では駐輪場を残しつつ住宅地として整備されてOPムービーのようなおどろおどろしい様子というのはなくなっています。
モノは残っているものの雰囲気といったところは感じられにくいでしょうか。
駅舎は特に大きな変更はなされておらず、ゲームに近い面影を残しています。
駅前はミスドスターのモデルとなったミスタードーナツが少し前になくなってしまって串カツ田中になっています。夕闇通り探検隊発売直後にフレッシュネスバーガーが横にできていましたが、そのフレッシュネスバーガーはかなり長いこと続いているため、当時散策をしていた人ならゲーム内の風景ではありませんが懐かしさを感じるはずです。
駅前のメロスを繋いでおける場所も現存。夕闇通り探検隊発売直後に日野駅前はコンビニ的なところが取り壊されて少し広くなりましたが、それから何ができるということもなく駅前はそのまま時が流れています。
輪坂神社のモデルである八坂神社も駅の南側に。ただこちらは社を改修してだいぶ神社感が薄れてしまっており、ゲーム中の見た目とはかなり異なったものになっています。
そもそもゲーム中ではそこまで大きさを感じない神社ですが、現実では結構な解放感のある場所になっています。
左脇にあるお社の方がモデルとしては近いでしょうか。
また境内にあるさらに小さなお社はゲーム内の袋小路の噂に出てくるお社っぽいのでこちらの方が夕闇感があります。
ゲーム中の面影があるという意味では宝禄寺のモデルになった宝泉禅寺の方が強いでしょうか。
目の前の道路はゲーム中で表現されているものに近いですし、パノラマ画面で表現される墓地も周りのマンションがそのまま残っているので同じ風景を見ることができます。
ここから坂道を登っていくと坂下地蔵があります。ゲーム中では坂上地蔵といった形でお地蔵様がありますが、そのモデルとなった8体のお地蔵様となっています。
駅南側の道路沿いは他にも夕闇通り探検隊のソフトタイトルロゴに似ているフォントと配置の薬局であるどんぐり薬局。
そして多摩川へと抜けれる道などがあります。
なんともない線路沿いの景色ではありますが、随所に夕闇らしさを感じてしまうのは性(さが)なのでしょうか。
続いては北口周辺を散策してみましょう。
日野駅前と言えば夕闇通り探検隊の舞台として代表的なスポットである「大階段」の存在は外せません。
手すりの色は何度か変わっていますが、そばの建物や見える景色といったところはゲーム内や発売当時とほぼ変わっていないのは凄いところです。
開発のしようがないという事情もありますが、数十年変わらぬ景色がここにはあります。
ちなみに以下の画像は05年頃のガラケーで散策した当時のものです。やはりあまり変わっていませんね。
この大階段の下から坂道を登っていくといくつもの夕闇通り探検隊の舞台がまだ残っています。
まずガード下の公園。ゲーム中や説明書内にゲームの雰囲気を伝える写真で印象深い場所です。
こちらは2023年3月まで中に入れなくなっていますが、公園内の遊具などはちゃんと残されています。
この坂道の通りはゲーム中で「ゆうやみ坂」として結構はっきりと参照されていて面影がうかがい知れるところです。
駐車場としてかつて使われ、菊一グループとゲーム内の看板で表示されていた看板のモデルがあった所もこの坂道にありましたが、今ではなくなり駐車場と住宅地として扱われています。
一方で坂道×バス停というゲーム中のゆうやみ坂に似た風景はしっかりと残っています。現実の方が若干スケールダウンはしていますが、ここは今歩いても夕闇らしさを感じる風景となっています。
ゆうやみ坂のモデルとしては大階段すぐ横の巨大擁壁の方が「っぽさ」があります。
坂を登った先は中学校に続く道となりますが、そこにはいくつかゲーム内の商店のモデルとなったお店の跡地があります。
住宅地や更地化、それに駐車場化してしまったところもあり、当時の面影はどうしても残っていないところがある一方で、お店の形態としては変わってしまったものの、学習塾やカレー屋さんに転身したむさ志さんのようにほんの少しだけその面影を残すお店が残っており、よく持ちこたえているなと感心させられます。
ちなみにこちらも05年の頃に探検した時の写真が残っていたので見てもらえればと思います。
ちなみにゴミボックス方式だった頃の名残でゴミボックス収納スペースみたいなところが道路上にたまにあるのはちょっと面白いです。今の中学生とかは何のスペースかわからない可能性もありますね。
中学校は舞台になった当初から大きく変わっていません。人通りがあるためにあまりしっかりとした写真は撮れませんでしたが、ゲーム内に近い姿をそのまままだ残しています。ちなみに下の写真は場所を間違えて撮っています。
この中学校までの道を更に先に行くと日野自動車の広大な敷地があり、ここにもゲーム中の景色が残っています。ここには印象深いストーリーの一つである黄色い傘の噂でお馴染みのバス停があります。
ベンチなどは昨今の流れで用意されていませんが、相変わらずな雰囲気を残していてやはりそれっぽさを失っていません。
24年経過しても残る景色に嬉しい反面、ゲームで表現された「発展により古い景色が失われる」ことが無くなった日野市に寂しさも感じる
24年という長い年月が経ちながら、意外にも日野市には夕闇通り探検隊のゲーム中のモデルとなった街並みや建物といったところが残っており、今探索をしてもそれなりの満足感の得られるものになっているのは間違いないでしょう。
ただゲーム中では「陽留見」から「陽見」へと街の名前が変わり、カスカに初めて会うシーンでも「ずっと留まるものなんてない」といったセリフがあるように、夕闇通り探検隊のテーマの一つには変わりゆく街の景色、といったところがあったはずですが、現実の日野市のこの「変わらなさ」といったところはゲーム中に描かれたある種の「寂しさ」といったものとはちょっと離れたものになっているのを感じます。
ゲーム内の景色が好きだった身には変わらない景色がまだまだ存在することは嬉しいのですが、喪失感や時の流れを受け入れて前に進んでいこうというゲーム内のメッセージを考えると、今の日野市では夕闇通り探検隊の舞台にはなり得ないのかなと思わされます。
とは言えゲーム内の景色をこの2020年代でも楽しめるというのは貴重ではあるため、動画などで夕闇通り探検隊の魅力を知ったという新規のファンも日野・豊田に足を運んで欲しいところです。
今でもゲーム内の面影が街に残っているのは貴重なため、これが更なる年月を経ていよいよ無くなってしまう前に一度は見に行ってもらえればと思います。